My Son.
roki様




海賊「黒ひげ」の襲撃と、国王ワポルの国外逃亡という二重の衝撃から数ヶ月が立ち、 島にもだんだんと復興の兆しが見えてきた。
人々の中には「いっそ、せいせいした」と言う者も出始め、それが長く君臨していた ワポルの圧制のつらさを語っていた。
それでもまだ人々は日々の暮らしで精一杯で、国としてのシステムが完全に崩壊した 今、隣同士の村で行き来することでなんとか横の連絡を取り合っている状態が続いて いる。
そしてどんな時でもやはり病人はいつでも現れる物だった。

最近のくれはは、ある程度定期的に各村々を廻り、怪我人や病人を見つけては勝手に 治療し、治療代をふんだくっていった。
治療代はくれはの中では、その症状の度合いによって調整をしているようだが、払わ される側としてはその上限があまりに高すぎて区別がつかない。
おまけに、病状が表立つ前の初期症状で治療されたりする時もあるものだから、本人 に自覚がない場合、尚更法外な治療代に思われる。
そんな訳で、くれはの登場はありがたくもあるが、迷惑に感じられたり怪しまれたり していた。
チョッパーはそういう事に憤りを感じていたが、くれははまったくおかまいなしだっ た。
「ガキどものいう事に、いちいち怒っているんじゃないよ。チョッパー」
建物の蔭、トナカイ姿で『治療代』をそりに積んでいるチョッパーに、くれははふふ んと鼻で笑って言った。
「物のわからない素人に説明するだけ、時間の無駄さ。華の盛りをそんな時間につい やして貯まるもんかね!病気を治す。報酬をもらう。それになんの不都合があるもん かい」
イーッヒッヒと笑うと、まだ憮然としているチョッパーの背中を思いっきりどついた。
「さーて。ビッグホーンで後見て回る患者は・・・あぁ、もう一人いたねぇ」
どつかれたショックで、そりに思いっきり鼻面をぶつけて痛がっていたチョッパーは、 涙目でくれはを見上げた。
「ドルトンだよ。この前診た時はだいぶ死にかけていたようだったけどね・・・今頃 起き出しているかねぇ」

ドルトン

ピクッとした。
「確か守備隊の・・・」
「そうだよ。この前診察に行ったろ?『黒ひげ』に唯一向かっていった元守備隊長さ。 あの男も死んだと思っていて、気がついたら自分の財産半分持ってかれて、さぞびっ くりしただろうねぇ。イーッヒッヒッヒッヒ」
おかしそうに笑うくれはから視線をそらすと、チョッパーがはふと物思いにふけって いった。
「・・・ドクトリーヌ」
「なんだい?」
「俺・・・俺、外で待っていていいかなぁ」
「なんだって?助手の癖にかい?」
ジロリと睨みつけた。
「あたしが仕事をしている間、おまえは外でサボっているっていうのかい?」
「・・・そんな訳じゃ・・・!サボりたい訳じゃないんだよ。・・・でも俺、前にあ の男と会ってるんだ。ドクターが死んだ時に」
怪訝そうな顔で、くれははチョッパーを見返した。
「あの時あの男、俺を助けてくれたんだ。悪い奴じゃないのはわかる。でも俺、今しっ ちゃかめっちゃかだから」
申し訳なさそうに、くれはの様子を窺いながら、チョッパーは言葉を続けた。
「顔見るとさ・・・。なんか又色んな事思い出して混乱しそうだから、今は会いたく ないんだ。この前はあいつ殆ど意識が朦朧としてたけど、あいつ絶対俺の事覚えてい ると思うんだ。でも、やなんだよ。それで色々話しかけられたりとかされたら、只で さえ色んな考えが頭の中ぐるぐるしていて収集がつかないし・・・」
「わかったよ」
しょうがない奴だねぇ。と、一つため息をつくと、くれははサングラスをかけ直した。
「お前が最近混乱気味なのは知ってるからね。そんな奴に助手なんて危なくてさせら れないよ・・・。でも、いいかい?そんな甘えた事は今後一切許さないよ!今度そん な事言い出したら、夕飯のシチューにしてやるからね。分かったかい!」
こくこくと首を思いっきり縦に振った。
ドクトリーヌは誓ってそれを実行するだろう事を、チョッパーは信じて疑わなかった。

その時。
ふと風に混じって匂いがした。
(この匂い)
一瞬で思い出した。たった今話していた男の匂いだ。
道の向こうに大きな影が見えだした。
元ドラム王国守備隊長ドルトンの姿だった。


「おやまぁ、ドルトンじゃないか。今からちょうど行くところだったんだよ。イーッ ヒッヒ」
「お久しぶりです。Dr.くれは」
恐らく島で一番の巨漢であるドルトンは、雪が踏みしめられた道をゆっくりと歩きな がら近づいてきた。
あの日ワポルの怒りをかい牢の中に入れられたドルトンは、断固としてワポルに服従 する事を断り長く幽閉された。
だが先の『黒ひげ』の来襲時には、その強さを買われて牢から出され、その相手をし た。
結果的にそれはワポルが国外脱出するまでの時間稼ぎに使われたのだが・・・
「海賊来襲」より深く絶望した「国王の裏切り」にもドルトンは耐え、最期まで『黒 ひげ』と戦った。
それにより瀕死の重傷を負ったが、村民からの要請で、くれはがチョッパーと共に診 察し何とか命を取り留める事が出来た・・・


くれはが辺りを見回すとチョッパーの姿が見えない。
おやと思ったが恐らく匂いを嗅ぎつけて反射的に隠れたようだ。
足跡がすぐ背後の建物へと続いている。
「?どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ・・・。それより医者が診る前に患者がとっととベッドから起 き出すのは感心しないねぇ」
「いや、ゆっくりもしてられませんし。やらなければならない事が山のようにありま すから・・・。私は大丈夫ですよ。身体が丈夫なのが取り柄ですから」
「大丈夫かそうじゃないかは、あたしが決めるこった!お前さんは長い間幽閉されて、 体力だって落ちているんだ。まったく、しょうがないね。ちょっとそこに座ってごら ん」
「こ、ここで診察するんですか?」
「自分からのこのこ歩いてきたのはどいつだい。それ、まず眼をみせな・・・」
地面に座らせて簡単な問診をすると、不承不承ながらOKを出した。
「怪我の具合はだいぶ良くなっているようだね。身体は、昔に比べりゃ少しやつれた が。まぁ、食生活と睡眠をきちんとすればこれは大丈夫さ。まったく、その丈夫な身 体と能力に感謝しな」
「すいません」
礼儀正しくドルトンは一礼すると、そりから梅酒を取り出すくれはに話しかけた。
「村人から聞いたのですが、最近ワポル城に引っ越しされたと・・・?」
「・・・あぁ、あんないい城、せっかく持ち主が逃げちまったんだ。使わないともっ たいないからね。それとも元守備隊長としては文句があるのかい?」
「いえ、そうではありません。どうしても伝えておきたい事がありまして、城までど うやって行ったらいいかと途方にくれていた所ですから」
「おや」
珍しいね。とふっと眼を細めた。
「あたしに用だったのかい?まさか治療代返せって言いに来たんじゃないだろうね?」
「ち、違います。そうではなくて、遺言です。貴女は同じ医者同士、親交があったよ うですから」
「遺言?」
酒瓶を口に運びかけた手を止めて、ドルトンを見直した。
「誰のだい?」
「Dr.ヒルルクです」
居ずまいを正しながら、厳粛に面もちで告げた。
「彼の最後の言葉を」


はっきりと息をのむ気配が、背中から感じた。


くれはは、ちらりと背後の建物の影を見るとドルトンを促した。
「いいだろう」
ぐびりと梅酒を喉にそそぎこむ。
「聞こうじゃないか」
「はい」
そうしてドルトンは静かに話し始めた。

「あの日、ワポルが流した流言を信じてDR.ヒルルクはワポル城に来ました。病気で 倒れたという国の唯一の医者達「イッシー20」を治療するために」
「知ってるよ。お前らにまんまと騙されてね」
「・・・はい。もちろんそれを納めきれなかった以上、罪は私も同罪です」
「自覚してるんなら言うこたないよ。先を続けな」
「はい。周囲を守備隊に囲まれ銃を突きつけられ、それでも尚こう言ったのです。お 前らに俺は殺せない。と」

すべての銃を向けられながら彼は不適だった。

「人いつ死ぬと思う?と私達に問いました。それは心臓を銃で撃ち抜かれるときでは ない、不治の病に犯された時ではない、猛毒キノコのスープを飲んだ時でもない。と」


一瞬くれはの瞳の影が、ちらりと動いた。


建物の影で、4本の足が震えた。


「それは人に忘れられた時だ。と」

(俺が消えても俺の夢は叶う)
(病んだ国民の心もきっと救える)

「人も国もそうだと言いました」
ゆっくりと己に言い聞かせるようにドルトンは語り続けた。

「受け継ぐ者さえいればそれは出来る。と」

一瞬風が止まった様な気がした。

「それが彼の最期の言葉です」
ふぅっと大きな吐息を一つもらした。


「・・・Dr.ヒルルクは素晴らしい医者でした。私は彼を誤解していた。彼こそ真に 医大な医者です。あの日ワポルにだまされてドラム城に来たとき、彼がなんて言った と思います?」
「・・・さぁねぇ」
じっと聞いていたくれはは、薄く笑うとドルトンを見た。
「『よかった。患者はいないのか』って、ホッとしていたんですよ?『俺が騙された だけか』と」
その時の事を思い出すとキリキリと腸がよじれそうな気がする。
この罪は国の為に全てを尽くすことで支払わなければならないと胸に刻み直す。

「話せてよかった。これを・・・ずっと伝えねばと思っていました。貴方と・・・そ して彼の息子さんに」





next
Back



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送