My Son.
roki様




「息子?」
ふいに。それまでで一番真剣な表情になって、くれはが問うた。
「えぇ」
当然。という顔でドルトンはうなずいた。
「彼の息子さんですよ。私は彼が何処にいるか知らないんです。でも貴女は知ってい るんでしょう?」
「・・・はてさて、おかしな話だねぇ」
くすりと何事かを楽しむように、微笑む。
「あいつはずっと男やもめで、女房はもちろん子供だっていない筈だけどねぇ・・・。 それとも隠し子でもいたのかねぇ?イーッヒッヒ」
「そんな・・・確かにいました。私は会ってるんです!Dr.ヒルルクが亡くなった直 後に、城に来ていました」

そう、そして彼はたぶん自分と同じな筈だった。

「恐らく『悪魔の実』の能力者じゃないですかね?私と同じタイプですよ。人間なの かトナカイなのかよく分からないのですが・・・ヒルルクと同じ帽子をかぶってまし た」
「ふぅん」
酒瓶を持った右手をクイッとドルトンに向けた。
「そりゃ、お前さんが勝手にそう思いこんでいるのかい?」
「違います」
キッパリと言い放つ。
「ヒルルク自身がそう言っていたのです。もうすぐここにバケモノが来るが、俺の息 子だから手を出すな。と」


(息子)


「そうかい」
心なし、くれはの表情が暖かくなっていった。
「そうかい・・・」

「・・・思えば先程の言葉は、その息子さんに対して言いたかったのだと思います」
彼の息子が生きている限り、自分も、自分の夢も受け継がれていくのだろう。
『夢を受け継いで行く者』がある限り、その人が死ぬことはないのだ。と。


雪混じりの風だけが、それぞれの想いを知っているようだった。


「ふふん」
皮肉下につぶやいたくれはの瞳の色は、まろかった。
「死んだ人間の最期の言葉なんてあたしには興味ないね・・・。あたしは医者だよ?
医者が用があるのは生きている人間だけさ」
にやりと笑うと、くれはは酒瓶をあおった。
「だが、その言葉を必要としている奴もいるだろう」
一瞬戸惑ったようなドルトンに告げた。
「ヒルルクの最期の言葉は、奴の息子に伝わるだろうよ。間違いなくね」
「伝えていただけますか」
ホッとしたような表情で一礼したドルトンに、笑って言ってみる。
「なんなら、会ってみるかい?その息子に」
「いえ。今はまだ」
「まだ?」
「・・・まだ会う資格がありません。いずれこの国が真に立ち直ったら、改めてわび をいれに行きます。本当はその資格もありませんが」
厳しい表情になり、ゆっくりと立ち上がった。
「今日はこれから民間の警備隊の編成について会議がありますので、これで失礼しま す。ありがとうございました」
身支度を整えると、一礼して立ち去りかけ、足を止めた。
「彼に伝えてください」
背中を向けたまま告げた。

「Dr.ヒルルクの意志は私も受け継いでいく、と」

そして荷を担ぎ直し、静かに立ち去っていった。


「まったく・・・くそ真面目な男が、妙な事を語り出すもんだから、聞きたい事を聞 きそびれちまったよ」
くっくっくっと笑うと背後の建物の影に歩いていった。
「おやおや。おまえにしては、珍しく静かにしていると思ったら・・・窒息死するつ もりかい?イーッヒッヒ」
チョッパーは鼻面を地面の雪にうずもらせて必死で声を殺していた。
踏みしばった両足が小刻みに揺れている。
「ドルトンならいったよ」
優しい声で、くれはは告げた。
それを聞くとチョッパーは雪にまみれた顔をあげ、おうおうと泣き崩れた。
どうしても、どうしてもこらえきれなかった。
後から後から涙はあふれ、すっかり凍えきった顔の雪を溶かした。


猛毒のスープを飲ませた事も、自分を置いて行ってしまった事も、納得いかずにわだ かまっていた事、迷って落ち込んでいた事、あらゆる悩み、眠れなかった夜。消化し きれなかった事、それら全て丸ごと受け入れて、笑い飛ばしてくれた。
大したことで悩むなと背中を叩いて、未来を見せた。
いつでも、そうゆう人だった。あの人は。
生きていても、死んでからも。

「ドクター!!」

だんだん暗くなっていく、空に向かって泣きながらチョッパーは吼えた。

子供の頃、仲間に捨てられた自分に父親がいたのだと。その日、初めて知った。




雪は今日も降り続いていた。

降り積もっていく雪は、すべてを覆い尽くしていくのだろう。

そして雪の下に芽生えた緑の芽は、ゆっくりと育ち、何時の日かその身を太陽の元に 表す。




END


イメージソング 奥田民雄 〜息子〜


ユニコーン話で、「奥田民雄の『息子』はお薦め」と先日roki様が仰ってたのですが。
なんとその後御自身で書かれてしまったそうです!
メールを開けた時の驚きといったら・・・・・・。
これは誰もが皆読みたいに違いない! と勝手に断定。許可を戴いて飾らせていただきました。
ありがとうございました! roki様!

ちなみに、
「 でも本当に原曲の『息子』を読んだ方が、絶対いいと思いますよ。
  (それを薦めたい為に書いたような物。確信犯か?)
  私的にあの歌は「旅立つチョッパーに、ヒルルクさんが歌って欲しい曲」
  であり、全ての『息子』に対して寄せる曲でもあるのです。       」
だそうです。
確信犯。キーワードですね。(めもめも)
さあ皆様、『息子』を聴きましょう。





Back



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送