My Son.
roki様




「ねぇ、ドクター。この絵は何?」

ある遠い日。

試験管やフラスコだらけのヒルルクの実験室に貼られていた、茶色く黄ばんだ「絵」 を見てチョッパーは聞いた。
「なんだ、知らねぇのか?そりゃ、地図っていうんだ」
顕微鏡から顔を上げてヒルルクは言った。
「船乗り達はな、これを見て自分の目的地の場所を確かめるんだ。世界は広いからなぁ 。地図がないと自分がいったい何処にいるのか、何処で迷子になっているか確かめよ うがないってもんさ」
「ふぅん?」コクリと首を傾げてチョッパーはヒルルクを見上げた。
「じゃぁ、この地図の全部が世界なのか?」
「バカだな、お前。世界なんてこんなものじゃないぜ?ちまたに出回っている地図な んて世界の切れッ端だぜ」
「切れッ端?」
「そうよ」
それからふと何かを思いつくと、壁から地図をはがし引き出しから何処にあったのか と思われるようなこれまた古い地図を幾枚か引きずり出した。
「来なよ、チョッパー」両手にそれらを持って首をクイッと外に向けいたずら小僧の ように笑った。
「『世界』をつかませてやるぜ」

その日もやはり雪が振っていた。
ヒルルクは地図をチョッパーに押しつけると、雪玉を作り、さも楽しそうにそれをど んどん転がし始めた。
見る見るうちに雪玉は丸く大きくなっていく。
(雪だるまでも作るのか??)
例によって唐突な行動の行方がわからず、当惑下に待っていると、両手で抱えられる ぐらいの雪玉になった所で声をかけられた。
「よし、その地図を渡せ」
言うとおりにすると、それらの地図で雪玉をぐるぐる包んでいく。
一瞬溶けた水滴を吸い込んだ古い地図はすぐにぺったりと雪玉に張り付き、瞬く間に 凍って固まっていく。
最期にもう一度ギュギュッと固め直すと、チョッパーに向けて「ほいっ」と放り投げ た。
慌ててそれを掴むと以外にそれはズシリと重く、一瞬取り落としそうになった。
「落とすなバカ!!」
そう叫ばれて、すんでの所で持ち直す。
「エッエッエッ・・・。そうだ落とすんじゃないぞ。いいか?それが」
両手を掲げてウインクした。
「これが『世界』だ。チョッパー」

チョッパーはキョトンとしてヒルルクを見上げた。
そうして両手一杯に掲げたその『世界』をまじまじと見つめ直す。
「・・・これ?」
「そうだ。それでもな、今出ている地図を全部つないだって『世界』はまだまだ広い んだぜ!?」
エッエッエッといつもの声で笑った。
「本当は世界地図なんて物が存在してりゃいいんだが、まだそこまで行った奴はいな いしなぁ、だが・・・」

ふと遠くを見た。
「でもきっと『それを書き上げてやるっ!』て夢を持つ奴はいつの時代の何処にでも いて、それをあきらめなかった誰かがいつか書き上げるんだろうなぁ・・・」
「そうなの?」
「おぅ」
ニカッと歯を見せて笑う。
「『人の夢』って奴はそうやって達成されていくもんだ。エッエッエッ・・・・」

チョッパーは手の中の『世界』をもう一度まじまじと見つめた。
鼻を近づけ、クンクンと匂いを嗅いでみる。
「・・・カビの匂いがするよ?」
「そりゃしょうがねぇ!古い地図だし、コーヒーこぼしたり、薬品それで拭いたりし たからなぁ」
「ええーーー!!?そんなのでくるむなんてヒドイよーー!!」
憮然としていると、おかしそうに笑って言った。
「だが、チョッパーよ。お前が持っているそいつは、確かにカビ臭いし、懐にだいて いればそのうち溶けちまうような物だけどな?でもお前がその気になれば、『世界』 は、いつでもそうやってお前の手の中に入れられるもんなんだぜ!?」
「え!?」
キョトキョトと、まん丸な眼が動いた。
「だって・・・広いんだろ?世界は。簡単に手に入れられるもんじゃないだろう?」
「あぁーー、広いさ!!それでも、お前の覚悟の決め次第だっ!手にいれたきゃ、ま ず世界に出てみる事だ!いつも言ってるだろぉ!?」
口角から唾を飛ばすような勢いで嬉々として力説した。
「ここん所を間違っちゃいけねぇ!いいか?お前は世界の中にいるけどな、お前の手 の中にはいつでも世界を握っているんだぜ!チョッパー!」
その時は何か不思議な熱っぽい話を聞かされているようで、チョッパーは少し呆然と しながらヒルルクの話を聞いていた。
でも手の中にズシリと残る『世界』の重さだけは、何故か心臓がドキドキするような 存在感で、その感触だけはいつまでもチョッパーの手の中に残っていた。





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