告白大会
前編?




 大体の人から一度は聞かれる。誰かさんから毎日聞かれる。
「一体あいつのどこがいいの」
 いやそれを言われると非常に困るんですが。
 冷静になれば愛想無い気配り無いセンス無いデリカシー無い方向感覚無い無い無い尽くしで、あら一体どこがいいのかしら?
 自問自答するとこうなるんだわ。
 愛想は、無くは無いわよ。だってチョッパーがあんなに懐いてる。ついでにルフィも懐いてる。子供受けがいいのは善人の証拠。ただお愛想が言えないだけで。
 気配りは、多分あるのよ。余計なことは聞かないし。聞いて欲しくない事は聞かないし、言って欲しくないことも言わないし、居ないほうがいい場所には居ない。あらなんだか消極的。
 センスについては妥協の余地がないからともかくとして。
 デリカシーは確実に無い気がするけど大した問題じゃないし。
 方向感覚は無い方が役割的にいい気分がしなくも無い。
 他人が貶せば貶すほど執着する私は天邪鬼で、他人が褒めれば褒めるほど扱き下ろしたくなる私は警戒心が強い。
 取ったら承知しないわよだけど取れるもんなら取ってごらん。
 大方の一般人は敵にもなりませんから。
 例外だったのがビビで、いっくら扱き下ろそうが「なんて微笑ましいんでしょう」と微笑まれて調子が狂い。素敵な人だけど私向きじゃないわ、と宣言されたのでつい気を許して全部暴露。
 止めときなさいと言われた事はあったけれど頑張ってねと言われたのは初めてだった。
 そうだわどうして誰もかれも止めておけというのかしらん。
 絵に描いたような幸せは望めるはずも無い。そもそもが賞金首であるからして。別れる時は慰謝料代わりに海軍に突き出したら幾らになるんだっけ、六千万? その程度じゃ足りないわ、止めとこう。
 前述のとおり無い無い尽くしだけれども、まあちょっとやそっとじゃ死なないだろう。サバイバル能力は基本です。
 死ぬ死ぬ言われることが多いのはある程度知っている人間で、それは勿論私も理解していてかなり恐い。文字通り命掛けるほどのことかとか思ってしまう一瞬があっても、それをなくしたらほぼ何も残らない男なんです。だから諦めた。諦めたけど本人だって死ぬつもりは毛頭ないだろうし、誰だって何時かは死ぬから言ってたらきりも無い。覚悟と自覚があるだけましでしょ。
 始終臨戦態勢、マリモ色の幸せだって別にいいの。
 いざって時には頼りになるし、いざって時が二つ重なってたとえ助けに来てくれなくても、私は自力で助かるから別にいいの。そうよその程度に覚悟してなきゃ一緒になんかいらんないの。
 解ってるんでしょうねニコ・ロビン。
 にこにこ笑ったって駄目よ。
 まあ基本的にあんたには、敢えてこいつを私から取ろうとするほどのエネルギー割く気無しと見たわ。あとはこいつがあんたに惹きずられなきゃいいだけの話で、よしやったろうじゃないの私はいい女よ勿体無いくらいにね。あんたもいい女かもしれないけど、こいつは見たところ完全な父親兄貴気質よ。オネエサマ好みはサンジ君にまかせとくから、頑張って。
 でもどっかの王女様も居ることだし、サンジ君はどうやらジジババキラーだから。尚更頑張って。
 話が反れたわサンジ君はこの場合どうでもいいの。
 っていうかむしろあんたはルフィ目当て? 苦労するわよ。
 あいつがねー一番の強敵なのよおそろしいことに。
 男の友情は禁断の聖域なんだわ。とてもじゃないけど私には入れないし入りたくも無い。いや入ろうと思えば入れるんだけど、そしたら女ナミとしては完敗なのよ。
 そう、私が女だって事にこのばかは本当に気付いてるのかしらね?
 幾ら何をしようが何をしようが私はあくまでも女。だからこそ何もして何もするのかもしれないけど私は女。
 女な私は綺麗だと褒められれば嬉しいし好きだと言われれば嬉しいんだけど。
 好きな男からでなくともそれなりにはね。
 ビビはその辺の壁をどうやって乗り越えたのかしら。私も一回は乗り越えた気がしたんだけど。何、昔の話よ。
 この件に関してはただの女としてぶつかりたい所だからね。
 たとえ陳腐とかそんな女とかてめえがそういう事言う柄かとか言われてもね。


「もう、止めにするわ」
 グラスを置いてニコ・ロビンは深々とため息をついた。
「まだまだ余裕がありそうに見えるけど?」
「無理よ。勝手に手が咲き狂ってるし」
 確かに勝手に酌をする手、ひらひらと煽る手、ナミの肩をぽんぽん叩いてみたり、床で伸びているサンジの前髪をつまみ上げていたり。
「第三位ってことでリタイヤさせてもらうわ」
 やや妖しげな笑みを浮かべ、またひょいひょいと生えてきた手が、床に伸びている四人を掴み、引きずっていく。
「おやすみなさい、ごゆっくり」
 余計な一言を付け加えて(絶対まだ素面だ)ロビンは出て行った。
「……大丈夫かしら」
「あいつらなら何されても文句は言えねえな」
 飲まれすぎだ、とゾロは容赦ない。
「それにしても、ロビン強いわね」
「ああ、ありゃ強え」
「しかしまたあんたとはね」
「仕方ねえだろ今さら飲み比べなんか」
「そうよねどうせこうなるのよね」
 言ってる傍からグラスになみなみと注ぐ麦酒。
「不満か?」
「別に」
「そうかそりゃ良かった」
「良かったの?」
「さっきから何か考えてたろ。専ら……物騒な何か」
「あんた失礼だわ」
「……そりゃ悪かったな。それよりかもう止めとかねえか」
「あら負けの予感?」
「挑発してんな」
 手抜きをして手だけ伸ばしてくるゾロにストップをかける。
「何か他に言うことは無いの?」
「何って何だ」
「難よ。言えるもんなら言ってみなさい、愛してるって」
「うっ」
 嘘じゃない。本当に呻くんだからこの男は。
 何度繰り返したかわからないこの会話。多分もっと別の言葉なら言いやすいんだろうけれど、いい加減ひねくれてきた私は妥協の余地を見せない。かといってこれでするっと言われてしまったら、すぐさま偽ゾロを振り払って本物を探しに走るだろう。
 ただ単に、たまにはそういうことも言われたいなと思ってるって事を、アピールしたいだけで。
 律儀に黙りこくっているゾロに、解りやすく笑ってみせる。というより半ば苦笑。
「……いいわよ言わなくても」
 あからさまにゾロは安堵している。
 ゾロはどうやらこれを一種の貸しと認識してるらしい。冷静に考えれば何故俺がそんなこと言わなきゃならん、と怒り出してもよさそうなものなのに。どうやら気付いていないらしい。

 あーあどうして私はこの男の何をそんなに気に入ってしまったんだろう。
 そして初めに戻る。


 ナミも気付いていない。
 ゾロは決して怒りもせず呆れもせず陳腐だと笑いもせず。
 ただとにかくひたすら困りきっているというこの事実。



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