First Night.2
roki様




カタンと音がして、ぼんやりと目が覚めた。


(あれ?ここ何処だろう・・・)


自分の部屋じゃない・・・あぁ、そうだ船に乗り込んだんだった・・・。

誰かが軽く音をたてて階段を下りてくるようだった。
小さな灯りも一緒に降りてくる。

(誰だっけ。この匂い・・・。ドクトリーヌじゃないし・・・)

男だ。それは匂いですぐわかった。
あれ?んじゃ、やばいんじゃないだろうか?ここって女部屋じゃなかったっけ?

侵入者が布団をあげたのと、チョッパーが寝ぼけ眼で身体を起こしたのとほぼ同時だっ た。


その瞬間のゾロの表情は、本当に見物だった。
顔が完全に固まっていて、言葉を何処かに置いてきたようだった。
ただランプの灯りに照らされて、ナミの隣でぼやぼやした表情で自分の方を見上げて いるトナカイを、唖然として見下ろしていた。
チョッパーはしぱしぱと眼をまたたいて、立っている男を見上げた。
(あぁ、あのコックと喧嘩していた男だ。確かゾロっていってたな・・・)
「・・・お前、何してるんだ?」
やっと言葉が戻ってきたらしいゾロが呆然と声をかけた。
「俺?寝てたんだけど?」
「・・・そんな事聞いてるんじゃねーよ」
「・・・?」
「なんで、そいつと一緒の布団に潜り込んでいるのか?って聞いてるんだ」
「あぁ」
ベッドの上にちょこんと座り直して、ポリポリと胸をかいた。
まだ今いち目が覚めてないようだった。
「こいつが寒いから一緒に寝ようって言うからさ」
そう言って気持ちよさそうに寝入っているナミを指した。
「・・・こいつが?」
「うん」
そして怒ったように言おうとして失敗してエヘヘーと笑った。
「なんか俺のこと毛布かなんかと間違えているみたいでさ。参るよな」
ゾロは絶句して、なんとなく天井を見上げた。
「・・・やってくれるぜ・・・」
「え?」
「いや・・・何でもない」
「ふーん?それで・・・」
チョッパーはふと気づいて男に言った。
「お前はここに何しにきたんだ?」
「いや、俺は・・・」
なんとなしに言いよどんでいるゾロをキョトンと見あげて、後ろのナミの寝顔をチラッ と見る。
途端に気づいた。完全に目が覚めた。
「お前!!」
突然呼ばれて少しギクッとしているゾロに思いっきり食ってかかる。
「さては交尾しに来たな!!?」

(交尾)

その言葉のダイレクトさに、流石のゾロも一瞬ぐらつきかけた。
『交尾』と掘られた大理石のブロックで正面からガーンと鼻にもらったような感じだっ た。
気分的にのたうっているゾロにおかまいなしに、チョッパーは怒りまくっていた。カ ンカンだ。
「ダメだぞ!!」
思わず大声を出してしまい、ハッと口をふさいでナミを窺うと、ベッドの縁にうつぶ せにふせながら、ひそひそとゾロを叱った。
「・・・絶対ダメだぞ。何考えてるんだ。こいつはまだ病人なんだぞ。完治してない んだからな」
「・・・別にヤリに来たんじゃねーよ。ちょっと様子を窺いにきただけだ・・・」
と、こちらもベッドのそばにしゃがみこんで、ひそひそと言い返した。
「・・・本当か?」
「・・・あぁ」
「全然?そんな気はなかった?顔を見たら帰るつもりだったか?」
「・・・・・・」
ポリポリと顎をかくと、鼻に小皺をよせているチョッパーをチラッと見た。
「まぁ・・・ちょっとはな」
「ほら見ろ!!」
「シーッ。声でけぇよ、馬鹿」
また二人して慌てて声を潜める。
「・・・だいたいこの部屋って女部屋だろ?お前勝手に入ったらダメなんじゃないの か?他の奴らはどうした?」
「ウソップは操舵室で舵とっている。他の連中は全員酔いつぶれたから同じキッチン に放り込んできた」
今日の見張り当番のウソップに舵をまかせ(半分ヘロヘロだったが)操舵室兼キッチ ンに残りの連中をかつぎ込んで、いったんは寝ようかと思ったのだ。
でもその前に一度顔が見たくなって忍び込んできたのだが、まさか先客がいると思っ てなかった。
(・・・ったく、これじゃ間男みたいじゃねーか)
でなければ義理の息子に「母さんに近寄るな」と牽制されている気分だ。
(なんせ俺に似てないし)
くだらない事を考えついてしまうあたり、かなり本気にショックだったらしい。
舌打ちしたい気分だった。
「女部屋だからダメだとか言うんだったら、お前はどうなんだ?」
「俺は許可をもらったぞ!」
「俺だって、まぁ、たいがいもらっているぞ!」
「・・・たいがいって何だよ」
「細かい事を気にするな」
そう言って立ち上がると来ていた守備隊のコートをばさりと脱ぎ捨てた。
ランプの灯りの中で鍛え上げられた身体が浮かび上がり、その胸に袈裟懸けに斬られ た大きな傷が眼に飛び込んできた。
「その傷はどうしたんだ?」
医者らしい興味で聞いてきた。
「別に。斬られたんだ」
そっけなく答えるとベッド足下から潜り込んでこようとした。
「・・・何やってるんだ?」
「俺も寝るんだよ」
「ここでか?」
「・・・この状況で部屋帰って寝ろっていうのか?」
「交尾はダメだった言っただろ!」
「しねーよ!それからな、頼むから」
懇願した。
「その『交尾』っていうのやめてくれ」
「何故だ?」
「何故って、そう言われると自分が猿とか昆虫になった気がするんだ」
「何言ってるんだ。他の動物はちゃんと繁殖期が決まっているんだ!」
冷たく言い捨てる。
「言っておくけど人間ぐらいだぞ!?年中発情しているのは!それでよくもそんな事 言えるもんだな!」
「年中発情してて悪かったな!!」
さすがに顔が真っ赤になっている。
なんでこんな事を言われなきゃならないんだ?
そういう事は、女と見れば見境なく追っかけるくそコックに言ってほしいぜ!
「あーっ、もういい!!とにかく俺は寝る!」
と言い捨てると、ごそごそと入り込んできて、チョッパーの方に顔を向けて寝ている ナミの背中側に潜り込み、彼女を後ろから抱え込むようにして横になった。
「3人寝るのには狭いだろ」
「じゃあ、お前が出ろ」
「何言ってるんだよ!俺が先に寝てたんだぞ。しかも本人がいいって言ったんだぞ!」
「お前、それをいうなら俺は・・・」
そこで間に入っているナミが「うーん」と身体をもぞもぞさせたので、また二人して 慌てて黙り込んだ。
ゾロは「シーッ」と口元に人差し指を当てると、軽くナミの髪に手をあてた。
ナミは眼を覚まさず、そのまま眠っている。
寝顔は安らかだった。それで少しホッとする。
ここ2日間はずっと高熱でうなされて、悪夢を見たりして非道く苦しんでいた。
でも今は安らかに寝息をたてている。
髪の毛に顔を埋めるとナミの香りがした。それがひどく懐かしい気がした。

「こいつ、いい匂いがするよな」
チョッパーがひそひそと言った。
「・・・あぁ、そうだな」
「なんか似たような匂いを、嗅いだことあるんだけど・・・なんだっけな。思い出せ ない」
「ミカンか?」
「あぁ、そうだミカンだ」
闇の中で嬉しそうに笑ったのがわかった。
「あんまり食べた事がないから思い出せなかった」
「そうなのか」
「冬島じゃ、めったに手に入らない」
お互い、小声でひそひそと話し続ける。
「ワポルがいたときは商船が出入りしていたから、他の島で取れた食材が市場に出回 る事があったんだ。最近は随分減っちゃったけど」
「そうなのか」
「でももうすぐ選挙があるから。国の代表がちゃんと決まれば前よりもっと住み易く なる。きっと」
そしてもう一度くんくんと鼻先を泳がせた。
「ミカンの匂いって好きだ」
「・・・この船に木が3本植えられていただろ?あれがミカンの木だ」
「あぁ、そうなのか」
「こいつが世話している。あれはこいつが島を出るときこいつん家の畑からわけてき たんだ」
ゾロは左手で頭を支えて、右手はナミの肩に乗せていた。その手で軽く彼女の頭を撫 でた。
「頼めばもいでくれるだろう。なかなか上手いぜ?」
「本当か?」
「多分な」
「・・・ミカンのなっている島かぁ」
ほぅと一つため息をついた。

「俺の知らない世界だな」

それが本当にあこがれを持った響きだったので、闇の中でゾロは眼をこらした。
「そのうちまたそこに行くこともあるだろう。お前が一緒に行くならな」
「・・・そうだな」
「あぁ」
「一緒に行ってもいいんだよな?」
そっと様子を窺っている気配がした。
「・・・別に反対する理由がねぇしな」
肩をすくめた。
「いいんじゃねぇのか?」
「・・・うん!」
嬉しくて思わず顔を上げた。
「一緒に行くぞ」
チョッパーが満面に笑みを浮かべているのが、闇の中でもわかった。
「一緒に行く」
「あぁ」
ポツンと言いかえした。
口調はそっけないが、なんとなく暖かみがこぼれてくるようだった。
部屋の中はまだ少し寒かったが、少しだけ穏やかな空気が流れた。

「そろそろ寝ようぜ」
大あくびを一つする、ゾロは本当に眠そうだった。
「お前知ってるのか知らないが、今この船はちょっとやっかいな所に向かうことにな るんだ。これから忙しくなるぞ」
「わかった」
「お前船の動かし方とか解るか?」
「知らない。俺船に乗ったの、これが初めてだ」
「じゃぁ、この女かウソップが教えてくれる筈だ。言っておくけどこき使われるぜ?」
「大丈夫。こき使われるのは慣れてるから・・・、ドクトリーヌに」
くふふと笑っていた。
「・・・あぁ、あの婆さんか・・・」
あいにくゾロは包丁を投げられた事しか知らなかった。
あのおっかない婆さんで慣れているなら大丈夫かな(つーか、あれ本当に医者か?)
ナミも相当きついが。
「まぁ何にせよ、明日からだ」
「うん、明日だな」
「んじゃな・・・」
ゾロは寝る前にナミの様子をもう一度窺って、頬に唇を寄せた。寄せようとした。
「おい」
気配で判ったらしい。先程までの和やかさが消えた声で言われた。
「・・・別にこれ以上何もしやしねーよ」
憮然とした声で返す。
「キスだけか?」
「・・・そうだ」
「ならいいけど・・・。そうだ、俺もされたぞ!」


空気が一瞬で固まった。


「・・・なんだって?」
「俺もさっきその女にキスされたんだ。鼻先にだけど」
まったく参るよなー。とか言いながら固まっているゾロにおかまいなしに話し続けた。
「そんな事されても別にさ。ちっとも嬉しかないんだけどさ。まぁ、別にそんなの挨 拶みたいなもんだしな」

思いっきり嬉しそうじゃねーか。

胸中、複雑な物が入り交じりって絶句しているゾロの様子に気づいたのか、チョッパー が不思議そうに訪ねてきた。
「どうしたんだ?」
「・・・何が・・」
「いや、なんか・・・怒ってんのか?」
「・・・別に」
「そうかぁ?」
「何でもねぇよ。正直いって自分でも馬鹿げてるのが判るからいいんだ。ほっといて くれ。もう寝るぞ俺は!」
なお怪しんでいるチョッパーを捨て置いて、ナミを背中から抱きかかえるようにする と、その髪の毛に顔をうずめるようしてさっさと眠った。
ほとんど無理矢理眠る事にしたようだった。


(変な男だなぁ)
とチョッパーは小首を傾げた。
まぁ悪い奴ではなさそうだったけど。
人間ってよく判らないけど、この船に乗っている奴らはちょっとみんな変わっている よな・・・

でも俺にはそれがちょうどいいかもな。

それでなんとなく、にまっと笑った。
そしてもうさすがに眠かったので、彼もまたナミのそばに潜り込んだ。
3人も入ったベッドは少し狭かったけど、とても暖かかった。
なんとなく、こそばゆい気がしたけど悪い気はせず、チョッパーもすぐ静かに寝息を 立て始めた。


翌朝起きた時、彼らはまた一騒動起こす。
でも、それは彼らの長い旅の中の小さな一幕であり、始まりだ。


END




【 My Son. 】のさらに続きです。チョッパー!ゾロ!なんて会話!交尾って!!(爆)
roki様ますますありがとうございます〜。ゾロが〜vvv
(何しろ俺に似てないし)ってとこが無闇に笑えます。
もう何か叫びたくてたまらない人は、掲示板でどうぞ叫んでいってくださいませ。叫び大歓迎です。
*この頁の何処かに素敵挿絵が隠れています。*
本文と同時に戴いた挿絵を、志紀のミスでアップし損ねていました。
遅らせてしまったので、roki様の了解のもと、載せさせていただくことにしました。
rokiさんありがと〜vvvvv





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