クリスマス・クリスマス
その頃の二人




「で、今頃二人は多分天辺の辺りにいるんじゃないかなーってね」
「そこまでしてやる必要があるとは思えねんだがなあ」
「しっかしあんたも似合わないわね。なんかやばめの呼びこみっぽくない?」
「るせぇ。仕方ねえだろうが仕事なんだから」

 遠くでドーンと大きな音がする。花火はもう始まっているらしい。二人がいるのはショッピングセンタービルの階段だ。エレベーターで昇れるとこまで昇って、素早くこっそり事務所側の階段室にもぐりこんで、ゾロはろくろく説明もなしに一段とばしで階段を駆け上がる。
「ねぇどこ行くつもり!? 花火始まっちゃってるじゃない!」
 強引に掴まれた手をひくゾロの、容赦なしの勢いに付いて行くのもそろそろ限界。
 なんでこのおめでたいイベントに階段のぼりレースをしなきゃならないんだろう?
「時間がねんだから仕方ないだろうが!」
 やっとついた最上階。メインの屋上スペースとはまるで反対側で、タンクやらなんやら、薄暗い中にそびえている様は、一人だったらかなり怖い。空を見上げると花火の光が暗い空に映っていて、一層足元の暗さが恐くなる。
 ゾロは手近にあった梯子を上る。上りづらいブーツの私を引っ張り上げてくれた先は、なんと本館エレベーターの真上だった。
「こんなとこ来ていいの!?」
「大声出すな。駄目に決まってんだろが。一度上ってみたかったんだ」
 以外に屋上にいる人は少ない。飾りつけもあまりしてなくて、皆賑やかな下に行ってしまったらしい。ステージとかも出来ていて、そういう理由なのだろうけど。
「・・・・・・凄いわ」
 鉄の安全網も人垣も、視界を遮る物は何もない真正面に、夜の海と大きな花火のパノラマがあった。
「おいこっち来いよ。こっちのがよく見える」
 手招きをするゾロの傍まで行くと、下から吹き上げる風に鳥肌が立つ。
 人工の断崖絶壁。ビルの端の後一歩で落ちそうなこんな場所で、無邪気に笑っていられるその神経が許せない。
「落ちたら死ぬわよ・・・・・・」
 それでもしがみ付いてこわごわ覗き込む。ジェットコースターや飛行機は平気でも、これはちょっと問題外だ。花火の音の衝撃が全身に響いて、もう怖いなんてもんじゃない。
「いい場所だろ」
「どこがよ!」
 しがみ付いたままでも律儀に入れた突っ込みに、そっぽを向いたままゾロは答えた。
「空いてて誰にも邪魔されないし、おまえの方から素直に引っ付いてくる」
「!」
 こうなってはナミはもう笑うしかなかった。なんて無茶苦茶な演出のクリスマス!
 相変わらず風は吹き付けて寒いし、断崖絶壁に鳥肌は立つし、見つかったら怒られるじゃすまないし。花火は物凄くよく見えるし。
 しがみ付いてる腕と肩だけは暖かいし。
 ゾロは知ってるんだろうか。私もきっとべたぼれよ。人のこと言えない。大好き。

「・・・・・・メリークリスマス、ね。ゾロ」
「・・・・・・・・・・・・・・・おう」






良い子は真似をしてはいけません


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