階級ジレンマ




真夜中目を覚ましてふと扉向こうの話し声に耳を澄ました。
何処からだって聞き分けられる君の声は今涙声。
新聞は綺麗に折りたたまれたまま今も多分ダイニングテーブルの上にある。
見ようとしなくても見える程大きい見出しを、君も見たんだね。


そう君が負うような事とはまるで思えない数字の羅列が、見知らぬ名前が
君を縛り付ける邪魔な枷のように、正直俺には見えるんです。時々。
それらを理解できないことを不甲斐なく思いはしませんが、
君は多分俺のそういう考えに気付いているのだと思うのです。
何故って王女様なんて人種にはまるで縁が無いから、
君にそんな見たことも無い人々を当てはめることが出来ないもので。
君が君だという以外のことがどうにも分かりづらいのです。


だけど時々君は歯を食いしばり、船の行く先を見つめているので
俺はそんな疑問を何処かに放って君を笑わせようとしてみたり。


君がただ君というだけだったらとても分かりやすかったろうけれど、
多分俺は気付かずにやり過ごしていただろうから。
君が王女様でよかったのかもしれないとも思うのです。
君が王女様に戻っても
俺の知っているとおりの君であるならば、
俺はやっと君を、君が思うことを理解できるのだろうけれど。
そのときには既に手も届かない王女様しかいないかもしれない。
同じ笑顔の余りの遠さに呆然とするばかりで。
そうなれば君を分かるひとも守るひとも思うひともおよそ数えきれないくらいで
俺は分かるのが遅すぎたままで。


攫って逃げようかななんて、実行しやしないから安心してください。
でももし手の届かない王女様なら、まるで違う君でいてください。
そんなふうに泣かせるような枷なら、本気で攫おうかと思ってしまうので。
毅然と端然と隙も無く、いっそ冷たいくらい、高貴なる王女様。



そうしたら俺は苦い煙草を噛みますから。






滲んだ月は煙か、それとも


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