やまないで




「泣くなですって?
 もしあんたが死んだりしたら泣いてやる。
 わんわんじゃなくてさめざめ泣いてやる。
 朝から晩まで一人で真っ暗にして泣いてやる。
 野望が叶い済みだろうが叶ってなかろうが、
 あたしは泣くわよ。泣くったら泣く」

 涙目で怒り狂って、
 巻いたばかりの包帯をきつく握り締めているナミに、
 他に言い様も何もなく。

「お願いだから泣くな、頼むから」

「ちなみに怪我の一つでも泣いてやる」

 腫れぼったい目で睨みつけてくるのを、わかったから、と。
 宥めていたら、そんなに困らないで、と謝られた。

「結局はただの私のエゴなんだから」
「私の単なる要望に過ぎないんだから」

 我儘です。ごめんなさい。でも心配するのは許してよ。

 決まり悪そうな顔で他所を向く。顔を隠す。

 心配かけるなら俺が悪いんだろうよ。

 エゴイズムという言葉を被った
 嘘の無い心が嬉しくてつい、
 二度としないと出来もしない嘘をつく。





2000.5


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