蝶々の捕まえ方




 アオスジアゲハを見たことがあるかい。
 真っ黒な鋭角に蒼冷めた硝子。細く優美なその身体。
 水の際に喉を潤す、その美しさを見たことがあるかい。


 それは近海の街の蝶々達の噂。
 海上レストランには珍しい蝶が居るよ。花から花へ飛び回って居るよ。
 興味があるなら、こっそり後ろから捕まえてごらん。
 ・・・捕まえられるものならね。


 ところが見かけに反して、その男の足癖の悪さは尋常ではなかった。

「あいつコックやめて賞金稼ぎでもなったらどうだろな? 無礼者と不埒者合わせて叩きのめしてきゃあ楽に食ってけるだろうさ」
「全員手玉にとって貢がせたほうが早いんじゃねえか?」
「てめえら好き勝手なこと言ってんじゃねえ!!」
 海上レストラン・バラティエ、厨房にて。
 必殺の踵落としが脳天にきれいに決まり、極道コンビはそれぞれまな板&ボゥルに顔面から突っ込むのをかろうじてこらえた。
「料理のために手加減してやったんだ。感謝しろ」
 振り向けば、五人分のスープを曲芸のように捧げ持ち紫煙燻らし去っていく細い後姿。
 一体どうやって二人同時に踵落としを?・・・・・・という疑問は置いといて、調理場の出口に向かってそろって中指立ててから、仕事に戻る極道コンビ。
「結局問題はこの店の立地(?)条件にあるんだな」
「だな。オーナーの考えもなんとなく分かっちゃきたが、物騒な客が多すぎらぁ・・・・・・それがまたいいんだけどな。厄介なのは強盗志願者よかむしろ・・・」
「つまりあれだな。危地から助かった直後は誰でも美女に見えるって言う・・・」
「ぅぅぅぅぅ怖気がするよーな話は止めろ」
「別に珍しいこっちゃねえだろ。まず野郎が目立つおかげで一般の女性客は無事で済むし、叩きのめした不埒者を海軍に知らせりゃ金一封。覚えもめでたく万々歳だ」
「野郎見目がちぃっとばかし良いからって・・・」
「てめえ、怖ましいのか羨ましいのかどっちなんだ?」
「見目がいいのは多少羨ましい気もするが男に言い寄られんのだけはごめんだぜ!!」
「・・・誰が男に言い寄られてるって!!?」
 今度は容赦なしの延髄蹴りが決まった・・・パティは泡立てきった卵白のボゥル・・・をかすめて調理代の角に顔面から激突した。
「お嬢さん方奥様方は大歓迎。礼儀正しい野郎共もまあ歓迎。勘違い野郎はクソ食らえだ」
「てめえ何しやがる!!」
 ただでさえ凶悪な顔に見事な痣つけて、凄みかけたパティの鼻先に、サンジは一枚の紙を突きつけた。
「今届いたんだよ勘違い野郎の依頼が。メニューとワインの銘柄指定だと!! 酒も料理の一部だってのに、勝手に決めてくんじゃねえクソ野郎が・・・・・・料理が酒の一部なんじゃねえ酒が料理の一部なんだ!!」
「それについては俺も賛成だぜ」 と、カルネ。
「てめえ俺の顔をどうしてくれんだ!!」 と、パティ。
「コックの命は顔じゃねえ!!」
 クソジジイ探してくらぁ。このクソ依頼を、無視するかしねえかは俺が決めていいことじゃねえからな・・・。
 ぶつくさと唸りつつサンジは勝手口へと消えた。
「・・・まあ、言い返せねえな」
「日和ってんじゃねえ・・・あんの渦巻き野郎いつかシメる!」
「とかいいつつ、お前渦巻きモチーフ好きだよな」
「うっ・・・・・・」
「しっかしあの野郎も、もうちっと可愛げってもんがあればな」
「仕方ねえ。だって俺らは男だからな」


 それもこれも、運命の巻き添え砲撃前夜の話。



 気まぐれ蝶々がついに捕まったそうよ。
 囮でも使ったのかしらね。
 まさか、ほんの子供だって話よ。
 じゃあきっとあれだわ。
 基本よね。
 小さな網持って、散々追い掛け回したのよ。






蒼い月夜もいいけれど、眩しい太陽の下も悪かない。


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