宣誓
さあ何処へ行こう? 未知の場所などいくらでも或る。例えば今までに通り過ぎてきた総ての場所を記憶の底から書き起こしたとしても、自分はそれが世界の何割になるのかさえ確とは知らないのだ。
夢は何時までが夢であったのだろう? 幼い頃から抱き続けていた想いを途切れさせた事は無いと胸を張っては言えない。喪失と痛みを恐れた反動の疾走の中で生きた数年の間は、守りたい唯一つ以外は何もかもが敵であるように見えて、凝った価値観の中で孤立した自分自身には目を向けずにただがむしゃらに爪をたてていた。その時間にも自分は同じように夢を掲げていただろうか。
些細な事で必要以上の傷を受けていた。繊細に鋭敏に研ぎ澄まされた心は神経質な程に外界の音を騒音を拾い、瞼の奥までも刺し貫かれる痛みと衝撃を防ぐために棘の糸を張り巡らせた。
けれど何よりもその防壁こそが自分自身を深く傷つける刃になり。
酷く臆病になっていました。
あたたかなてのひらを素直に受けることもできないほどに。
あなたの言葉を信じることもできずに。
いのちの存在とその心地よさを。
背中を預けて戦っていける場所があることを。
生にしがみ付いて喘ぐ自分にはその背中は遠すぎて、輝きを失う消滅前の星が最期に苛烈に燃え上がる姿にも見え。
眩暈嘔吐感重なる横顔に自家中毒。自意識とは別に拒絶反応を起こす身体に震える指先。
莫迦な男と蔑んで見せるのは自分の拭い去れない劣等感の所為で、無心に自らの約束と誓いのみを負って生きる事への嫉妬の所為で、守りたい筈の物を足枷と感じる自分への嫌悪の所為で。
いま風が吹いて髪を攫い通り過ぎました。
その心地よさを受け入れることの出来るわたしを、私のからだを抱きしめて光に身を委ねました。
私が私であるが故に立てる場所にあることを信じられるのなら、今までの私のすべてを誇りにして行けると思うのです。
覆われていた曇りを取り払い見つめ直した自分の凄烈な憧れと切望に胸を焼かれた。
渇いた瞳は満たされて沁み込んだ水は割れた大地を潤し。
残された傷も生への誇り。
さあ何処へ行こう? 道は果てしなく広く目前に広がり、踏み出した一歩など微々たるものに過ぎなくても。
新しく生れ落ちた世界にこの誇りと夢を生かし。
そうして私が立ち歩み出すならあなたも傍らで歩んでくれますか。
決して肩先は触れない距離で。
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