しなやかな腕の祈り
1111:紺様
つよい人だと思ってた
ひとり生きていける人だと
なんて愛想のない仏頂面をしているのかしらね。
何か言いたいことがあるのじゃなかったの?
・・・・・・言ってほしい台詞はあったのだけれど、期待したりはしなかった。
急がなければいけない道程に、遠回りを強いた自分自身にも腹立たしく。
特別につくってくれたおかゆを冷ましながら、しっかり休むようにとサンジ君は釘をさした。
けれど、その声が諦め半分で言うだけ無駄と思っているのがありありと伝わってきた。
問い返したら、最近は見慣れた風な苦笑を浮かべて、
「ナミさんにはかなわないや」
間に合わないとは思いたくなかったから、船は夜通し走りつづける。アラバスタへ向けて。
着けばまたただでは済むまい。敵となるのは七武海の一人。ここまで広がってしまった革命の火は、例えビビが間に合ったとしても収まりはすまい。
きっと人々は長い間胸に疑問と火種を燻らせ、それを煽り立てたのがクロコダイル。
既にアラバスタは王国でありつづけることは出来ないところまで来ていると思う。
けれど犠牲を減らすことならできる。
その為にどれだけの血が流されたって。
後部甲板でゾロは眠っていた。
投げ出した足には縫い目も生々しい傷痕があった。
シャツの下の傷も引き攣れたまま。怖気がするような有様の大傷。
その誓いのためにどれだけの血が流されたって。
大切な大切な白い刀。
「・・・・・・殺さないでね」
多分私たちは似ているのでしょう。
何かのために他の全部捨てて帰る場所も忘れて。追い求めて。
自分自身がどうなったってそんなこと怖くはない。
目の前にいる誰かが失われることより怖いことなんて、
ただ自分自身がこの歩みを止めてしまうことだけ。
白い刀。ゾロの約束。どうかこの男を連れて行かないでね。
歩みは止まりはしないでしょう。例え目の前にあるものが誰の死でも。
自身の死でも。
何も言葉を持てない眼差しが心の臓に食い入るようだった。
泣きそうな眼をしていたよ。
ただ流す涙すら置いてきてしまった。
怖くてたまらないと溢れかけた言葉さえ。
「・・・・・・ナミ?」
薄ぼんやりとした星灯りに、呆けたような呟き。
「何? ゾロ」
すぐ隣に座り込んで、寄りかかった肩はこんなにしっかりとしているのに、どうしてこんなに怖いのだろう。
私はここにいる。私は生きる。誰もあんたの前で失われるわけがない。
失われていいわけがない。あんた自身だって。
失くすのが怖いのは私も同じだと気付いてる?
「・・・・・・いるなら、いい」
すぐにまた眠りに潜ってしまったゾロの隣で、膝を抱えたまま寄り添って、目だけ閉じて祈ってた。
生きられますように、と。
何かを捨てて 誰かをなくして それでも求めていくのだから
全てが限りあるものだと分かっているのだから
せめて安らいだ眠りを祈るのです。
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